※ネタバレを含みますので、閲覧にはご注意ください!!

緋色の紅葉 
(BELOVE 2016年17号掲載)

「やめて、やめて、やめて!!」

死ぬのだけは!!!

銃口を自分のこめかみに当て、引き金を引いた津軽。
体がよろめきその場へと倒れこむ。

「津軽っ!!!」

すぐさま駆け寄る鈴子。
倒れた津軽の顔を覗き込みながら、目から涙がこぼれる。間に合わなかった…

「っ………つが…」

「それは、私のための涙?」

「!」
ハッと津軽の顔を見ると、そこには少しいじわるそうな笑顔。

「ごめんね、私は君の泣き顔好きなんだ。」


バッと立ち上がると、津軽は鈴子と愛染の間に立ちふさがった。

「二人で近づいてくるかと思ったけど、君だけ来てくれて助かった。これでもう容赦しなくていい。」

津軽は懐からナイフを取りだそうとした、その時、
「動かないでっ!」

銃を愛染に向けて構えたのは、鈴子。とっさに津軽の銃を拾い、彼へと向けた。
いつの間に…と感心する津軽。

「もういい加減にしてください、愛染さん。力で動かす道は、反発する力で阻まれるんです!!」

「貴様っ!俺こそが反発する力だ!追い払い打ち砕き、俺という人間をこの国に刻むためには誰にも邪魔はさせん!」
この人は何かの妄執に取りつかれた人だ。怨念のようなそれを取り払えたなら…。

「君の考えていることはたぶんちょっと難しいね。…ここまで来ると変わらないんだよ。」
津軽は鈴子の考えをよんで、言葉をかけた。

愛染は突如、連れの女中を捕まえて銃を向けた。
「俺は味方も犠牲にすることができる。」

「あっ、愛染様!?」
震える女中を盾にして、その場を離れようとする。…その時、雷が鳴り、近くの森に落ちた。
一瞬の隙を見て、女中は愛染を突き放し逃れ、津軽は彼女を受け止めた。
よろめいた愛染は地盤の緩んでいた崖の際に足を踏み出す。愛染の重みに耐えられず、地盤は崩れていく。

「あ・・・!」
愛染は近くにいた鈴を巻き沿いにしようと、彼女の足を掴む。
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必死に鈴の手を掴み、支える津軽。死んでも離すまいと彼女の手を握り締める。
もうだめかと思ったその時、鈴子の履いていた靴下が脱げ、愛染だけがまっ暗闇の崖の下に落ちて行った。

まだ息が上がったまま鈴子を引きあげ、ほっと深いため息をつく津軽。
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「でも…あ…愛染さんが…」

「暗いし、この天候だ。私たちではどうしようもない。夜が明けたら人を頼もう。」
自分が死にそうになってもなお、愛染のことを心配する鈴子。そんな彼女を見つめて、津軽は問うた。

「……さっき、名前呼んでくれたね。「津軽」って。」

「えっ」
あ…れ…?そういえば、なんで私、名前を…。鈴子は無意識だった様子。

「もしかして…思い…出した…?」

「ええと…えーと…ごめんなさい。」
でも…何も…出てこない。

「…そうか、いやいいんだ。それならそれで、過去は過去だから。」
そう言うも、少し残念な様子の津軽。


翌日、大勢で愛染を探したが、結局愛染は見つからなかった。
皆、少しずつ落ち着きを取り戻し、日常へと戻っていく。
おじい様の看病をしていた折、邸へ津軽が訪ねてきた。

「やぁ」

「津軽さん」
嬉しそうにほほ笑む鈴子。呼び名が変わっている。
津軽は鈴子を散歩に誘う。

「紅葉のきれいなところを知ってるよ。少し遠いけど。」

あれから、鈴子はうっすらぼんやり遠い人から思い出していった。
「蕎麦屋の井上さん、畳店の吉広さん」
しかし、近い人ほど知ってるくらいにしか思い出せない。のどにささった小骨のように、何かがひっかかって抜けないみたいに。

2人は紅葉が見える高台に辿り着いた。
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「まだ少し早いんだけどね。もっと夕焼けみたいにね…なるんだけど。」
あ、ここ知ってる…。
色づきが示すように、まだ少ししか思い出せない。

「あ、そうそう、これを君に…えーーと、”お近づきのしるしに”…」

今更お近づきのしるしにって…と心で突っ込みを入れる鈴子。
「ありがとうございます。なんだろう…」

出てきたのは、亀の置物、不老長寿と書いてある。
わぁー…。どう反応して良いかわからず、苦笑い。

「簪とかリボンも勧められたけど、恋人でもないのに身につける物は悪いし…私は自分に好意を寄せていない人に何かをもちかけることはしたことなくて、どうも勝手がわからなくてね。」

「今、さらっと殿様みたいなこと言いましたね。」

「え?ああそんな高価な物ではないよ。」

「そこじゃありません…」

ああ、なんとなくこのやりとり…知ってる。
やっぱり何かこの亀にも謎かけとかあったりするのかしら。

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「それなら、もう嫌ったりしてませんよ。むしろとても、感謝してます。」

「感謝かぁ・・・」

「不満そうですね。」
くすっと笑う鈴子。

「そんなことはないよ、まぁ、今はそれで充分。…今は…」
少し拗ねた表情でうつむく津軽。髪には紅葉がくっついている。

あ、頭に紅葉…なんだか可愛い。ずいぶん歳が上の人に可愛いって変かな。
こないだ助けてくれた人ととても同じには見えない…。

「そうだ、私おじい様に杖を贈ろうと思っているんです。それで、何かいい仕事ありますか?」

「おじいさんの世話もあるなら、いろいろ融通きくほうがいいよね…ということなら」
津軽は鈴にまっすぐ向き合って言った。

「私の助手をしてくれるっていうのはどうかな?」

いつか聞いたことのある、言葉。
何かな…この少し胸おどる感じ。

「今だと、まぁ、雑用くらいしかないけれど…店のこととか、どうかな?」

「そうですね…いろいろ思い出す刺激にもなりそう。じゃぁ、よろしくお願いします。」

鈴子は津軽に手を差し伸べた。
大きくて、温かい手。何かがこみあげるような…。
鈴子は少し頬を染めて、俯いた。

その様子をみて津軽は、笑い声を洩らした。
「ははっ」

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いや、全て津軽のフェイクでしたね。
鈴子の記憶は戻らなかったけれど、確実に変わってきていますね。
どんなシーンで記憶がはっきり戻るのか楽しみです!

そして、春時さんとはどうなるんだ…まだあの口づけについて何も触れられていない…
さらに、愛染さんまた何か仕掛けてきそう…



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