※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください!!

(LaLa2016年12月号掲載分)

「基地の外に馬の用意がある。タリガは一応殿下達が部屋にいるか確認して、合図をしてくれ。表からは出られないからさ。」

「…行くんだな。」

「ああ、もう、そうしないといけない。」

タリガはスッと立ち上がると、決意の表情でツルバを見た。

「―――戻れよ、ツルバ」

ツルバは一瞬の間の後、わざと無邪気な笑顔を向けた。

「ここの先輩達を沸かせたおまえの剣に、俺は何度も勝ってるんだぞ?」

その笑顔にタリガは胸を締めつけられ、
言葉を継くことができなかった。



ツルバは深い闇の中、決意の表情で馬を走らせる。
城内からその様子を固い表情で見送る、タリガ。

ベルガット家の当主である兄の目が届かない今しかなかった。
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この場所に来て 
俺たちは
初めて兄の駒として動くことをやめた


クラリネス王国の北の地、ウィトラント。
その中でベルガット家は、おそらく力を持ち過ぎた。

雪の深い間、王権の届きづらくなる長い冬。
領地とそこに暮らす人々を守るために与えられていた権力は、いつしか過ぎた支配力となり、
権勢を欲しいままにした。

そんな悪政がいつまでも見逃されるはずがない。

ついに、当時の国王陛下ハルト様がウィラント城に居を移し、全てを正し始めた。
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ベルガット家の権力はどんどん削がれていった。
当時ベルガット家の当主だった、タリガ・ツルバの父親はハルト様に異議を唱え続けた。

しかし、覆ることはなく、いつしか一族の中でもハルト様に従う者たちが増えていった。
ハルト派の代表となったのは、兄のトウカだった。



雪の深い森で幼いタリガとツルバは剣の稽古をしていた。
身軽な2人はブンブン剣を振り回す。

「父上と兄上達、また二つに分かれて言い争いをしてたよ。」

「またか、嫌だなぁ」
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「タリガは?」

「俺も、そうだな、わからないけど…そのうち俺たちのどっちかが、どっちか選ぶだろうから、そしたら同じ方向に行こう。」

ふかふかな雪の上にコロンと転がったツルバは、
無邪気な笑顔でタリガを振り返った。

「そうだな、そうしようタリガ!」

幼い2人はまだ権力の恐ろしさなど、
何も分かっていなかった。



それから2年の月日が流れ、体を患っていた父が他界した。
沈む双子の隣で、兄は言った。
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「どちらにせよもう長くはなかった。」

双子は空気が冷たくなった気がした。

「兄上…?」

「手を出せ」

兄は小さな小瓶を差し出した。

「これは?」

「・・・・・・凍土を融かす、薬だよ」

兄は弟達の髪を、無表情でクシャと撫でた。

「もういらないから、お前たちにやるよ。言っておくが…私には効かないからな。」

ドクン…
頭が真っ白になった。
2人はすべてを悟った。

雪山を全力で走るタリガとツルバ。
何かとてつもなく恐ろしいものから、逃げるように走り続けた。
雪が深々と降る中、真っ白な地面に倒れこむ。

「ゲホッ、ゲホ」

「はっ…はあ、ツルバ…っ…兄上が…父上を…」

目から涙がこぼれた。
凍傷になりかけの赤い指先を、ぎゅっと握りしめる。

「…ああ…タリガ、いいか」

ツルバは起き上がり、タリガの袖を乱暴につかんで引き寄せた。

「いいか絶対に!俺といる時も、一人でいる時も、兄上の言うことは必ず守れ!!」
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幼い双子は固い固い約束を交わした。
共に生き残る道は一つしかない。
兄から渡された毒の小瓶に少しずつ雪が降り積もっていった。


父が死に、兄は「父の遺志を継ぐことにした」と突然方針を真逆に変えた。
もとから父と同じ考えであったのだ。
それまで兄を信用してきたハルト派は、一転兄にすべてを握られることとなった。
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ついに兄は逆らう者のいない、ベルガット家の当主の座を手に入れたのだ。

双子は忠実で有能な兄の手下となり、手を汚していった。
兄の下で働くようになってから、刺客を放たれることも少なくなかった。
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「また元王権派の連中が雇ったか、懲りないやつらだ。私は別件があるが、3日後ラグシア邸の夜会へ行け。」

「はい」

「若い男は取り込みやすい、若い娘もな」

「はい」

「―――お前たち、襲ってきた刺客はどうしてる。」

双子は兄の言葉にピクッと小さく反応した。

「…動けなくした後で、放置か、場合によっては通報を。」

「次からは消せ。」

「―――はい。」

当主に従うことが自分たちの絶対の役割だった。
何年もそうだと思っていた。

そう、あの日まで、何年も。


ウィラント城で式典があった日…
初めてハルト様を目にした。

「あの人は、近衛騎士ハルト様側近のザクラ様、その隣はイザナ殿下か…」

イザナとザクラはにこやかな表情で、ハルトの前へ歩み出た。
まばゆい光が差し込む。
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その光景に双子は目を見開いた。
息が止まった。

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ツルバはスッと列を離れ、その場を立ち去った。
タリガが後を追いかける。


「・・・・・・お前はどうして泣いているんだ?ツルバ」
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口にしてもいいんだろうかと思った。
でも…タリガは越えた。

「今見たのが・・・・・・本物の主がいる光景だ」

2人の目から涙が止まらず、溢れ続ける。

じゃあ、あれは何だ?
兄の冷酷な行いが頭を駆け巡る。

心のどこかで気がついていた。
外の世界に出て、何かが…全てが違うことに。

もう全てをひっくり返そう。
兄がベルガット家の力を取り返す機を待つなら、
俺たちはその兄から、力を奪う機を待つ。

だが甘かった
ぬるかった

ツルバは闇の中、走らせていた馬から降りると
腰の剣を鋭く抜いた。

奪わなくちゃならないのは
力じゃない
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超泣けました…
兄の命を奪うという決断をしなければならなかった、彼らの苦しみが胸に迫りました。

父を兄に殺されて、あんなに泣いていた幼い2人が、
同じ肉親の兄を殺す決断をしなければならないなんて、悲しすぎる。

二人とも死なないで…









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