※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください

Story (花とゆめ 2017年5号掲載)

エスターは身支度を整えながら、自分を奮い立たせていた。
私にできることは、これしかない

その頃、レオンも一人暗い牢屋の中で、
ただ一点を見つめながら、何かを思案していた。

ふと、牢の窓に何かが降り立った気配を感じる。
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「アーサー様」

書斎で本を読んでいたアーサーに、従者が尋ねた。

「よろしかったのですか、エスター様に部屋と自由まで与えてしまって…」

「お飾りとはいえ、女王になるお方ですよ。いつまでも離れに閉じ込めておくわけにもいかないでしょう」

「エスター様はジェイル様への謁見を求めておられますが」

「ああ…そういえば、女王になる条件でしたね」

「いったいどういうことなのでしょう。謁見とはいっても、ジェイル様は意識もありません。おそらく数日中に崩御される…そんな方に会ってどうするというのでしょう」

アーサーは退屈そうに、本を閉じ棚へとしまった。

「彼女はダンピールと言っても、人間の世界で育っている。吸血鬼の中では希薄な親族への愛情というものが、強いのでしょう」

ふっと笑いをこぼした。

「生まれて初めて会った父親に…ご苦労な事だ。謁見は許可しますよ。好きにさせておいて構いません。人間の世界でぬくぬくと育った小娘に、何ができるわけでもありませんよ」


エスターは父の眠る部屋へと通された。
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「初めてお会いしたのに、突然お別れだなんて悲しすぎて…一緒に付き添わせてもらってもいいですか?」

「は、はいもちろん!少々お待ちください!」

ユアンは慌てて、エスターの椅子を用意する。

「ユアンさんは…ギルモア侯爵が倒れられてから、ずっと付き添われているとか」

「ここに一緒に閉じ込められているだけです…でも苦ではないのです。ジェイル様は私の…命そのものですので…」

ユアンは過去の話を語った。
まだ狩りも知らない幼い頃、両親に森に置き去りにされ、狼に襲われそうになったところを助けたのが、ギルモア侯爵だった。
そのまま、身寄りのなかったユアンを、自分の世話役として傍に置いた。

ジェイル様がいらっしゃらなければ、いまの私は無い。
ユアンは目からこぼれる涙をこらえながら、小刻みに震える。

「だから…ジェイル様は私の命そのもので…」

胸を打たれたエスターもまた、涙をあふれさせる。

「ギルモア侯爵はユアンさんにとってもお父様なんですね」

「ととと、とんでもない!そんなおこがましい…私にはそんな資格は…」

エスターはふと笑みをこぼした。

「だから、私たちに手を貸してくれた」

「!」

「レオンに会えるように、手引きをしてくれたのはあなたですよね?」

誰かが扉の鍵を開けてくれた…外に出てみると、雨上がりのぬかるみに小さな足跡が残っていた。この城で子供はユアンだけ。

「でも、このお部屋に閉じ込められていて、どうやって外へ?」

「あの…王族の方専用の秘密の通路があって…恐れ多くもそれを使わせていただき…すみませんでした、こそこそと…!」

「ああ、なるほど。謝らないでください、とても嬉しかったです。ありがとうございます」

ユアンはエスターの笑顔を見て、ボロボロと涙をこぼした。
心配するエスター

「…私のせいです…ジェイル様がこんなに苦しまれるなんて…私は…ジェイル様を…!」

「え…」
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「ジェイル様はずっと苦しんでおられた。特に去年…メグさまが亡くなられたという情報が入ってからは、血液の摂取を止めてしまわれた。…ジェイル様は死にたがっているのだと悟りました。ジェイル様を苦しみから解放できるのが死なのだとすれば…私はそうして差し上げたかった」

「それで、銀を…」

「私のこの思いに気付かれていたアーサー様の助言で…この方法ならすぐに楽に死ねると。でもこんなに苦しまれるなんて…」

エスターは驚きの表情を見せた。

「マクドナルドさんが支持して、あなたが実行を…?」

「…はい、私は咎人として処刑されるつもりでした。ジェイル様とともに逝けるなら、それで構わなかった。でもアーサー様はウィンターソンのご当主に、濡れ衣を着せてしまわれた。私が自首しようとしたら、この部屋から出るなと」

ユアンの震えが一層強まった。

「…もしや、アーサー様は恐ろしいことをお考えなのではないかと…私はとんでもないことをしてしまったのではないかと…毎日毎日こわくて…」

エスターはたまらず、ユアンに駆け寄った。
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アーサーマクドナルドーーー!
エスターは歯を食いしばり、心の中で宿敵の名前をつぶやいた。

「ユアンさん、もしかしたら何とかなるかも知れません」

「え…」

「手を貸していただけますか?」

あの恐ろしい人に、王の力を渡すわけにはいかない…


「ジェイルの容態はどうですか?」

アーサーは使用人に尋ねた。

「はぁ、それが…さきほど医者を連れてお部屋へ伺ったのですが…」

使用人は、エスターが泣きながら父の枕元に突っ伏している状況を説明した。
ユアンが、もう長くないから父娘二人きりにしてほしい…と言い、共感した医者はそのまま引き下がって来たと。

「まぁ、いいでしょう。当日までに死ななければ、私がとどめを刺すだけです。…女王の様子は私が見ておきましょう」

翌朝、エスターは足元がおぼつかない様子でジェイルの部屋へと向かう。
ああ、駄目だな、くらくらしてきた…
ふっと影が差す。

「ごきげんよう、エスター様」

アーサーが現れた。

「な、なんですか」

「…あれから、ジェイル様のお部屋に入り浸りのようですが」

「…父の最期を看取るくらいお許しください」

「…顔色が悪い」

アーサーはエスターの顎に手をかけると、グイと上を向かせた。
視線が絡む。
試すように縮まる距離に、エスターはギュッと目を閉じた。

やだ…
でも、ここで拒めば疑われる…

今にも唇が重なりそうな距離で、アーサーはパッと手を離した。

「いえいえ、お楽しみは初夜にとっておきましょう」

「!私に興味なんてないくせに!」

「まさか、とんでもない。憎き吸血鬼ハンター当主の花嫁を奪えるなんて、最高に興奮しますよ」

「…っ」

「ところで、その手袋は?」

エスターはハッとした表情をみせる。

「イ…イングランドではいつも着けていたもので。無いと落ち着かなくて…」

「そうですか、ドレスにはそぐわないが、まぁいいでしょう。」

少しほっとした表情になる。

「明日はいよいよお披露目式です。今夜は式の段取りの確認や、ドレスの試着もしていただかねばならない。どうぞゆっくりお休みください」

そうだ、ここで私が倒れるわけにはいかない…しっかり食べて、しっかり眠るんだ。

夜、ドレスの試着をするエスター。
侍女たちが盛り上がる。

「まぁ、エスター様、素敵!お似合いですわ!」

「本当にアーサー様にはもったいないわ」

「ちょっとやめなさいよ」

「だって、あの牢にいる方がエスター様の本当の婚約者様なのでしょう?アーサー様と違って、とても素敵なお方!昨日なんて食事をお持ちしたら、ありがとうって微笑まれたのよ!」

侍女たちは頬を染めながら、ときめいていた。
エスターはその様子を見て、レオンが元気そうでよかったと安心した表情を見せる。

待ってて、きっと助けてみせるから――


エスターの声が聞こえたかのように、牢で横たわっていたレオンは宙に手を伸ばした。
マクドナルドは、エスターが女王になれば俺を釈放すると言ったらしいが、おそらくその約束は果たされない。

レオンは宙に伸ばした手を、ぎゅっと握りしめた。

大人しく殺されて堪るか。
この手でエスターを幸せにすると誓ったんだ。
そのためなら、どんな方法も厭わない。

ふと、牢屋の小窓からコウモリの大群が流れ込んできた。
牢屋の中で集まると、みるみる大人の男の姿になる。

レオンは落ち着いた表情で、彼を見た。

「やあ、レオン。今晩は」
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レオンは下から彼を見上げて、呼びかけた。
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共に過ごした遠い昔の楽しい記憶が、頭をかすめた。
その頃と変わらない、少し生意気な物言い。
クリスの表情がふっと緩んだ。

「うん、おまたせ」

とても穏やかな笑顔がレオンに向けられた。



Comments
毒を盛ったのはユアンだったのですね…
アーサーは巧妙に色々な人をうまく利用しているのだろうな。

エスター血をあげているように見えますね…
何か画策しているようですが、負けないで欲しい。

そして、クリスさま、助けに来てくれると思っていました…!
個人的にクリスさま好きなので、レオンと力を合わせて闘って欲しいです。

いよいよ、次号結婚お披露目式かな?
どんな展開になるのか、楽しみです。



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