※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください

Story  
反芻女 (Kiss 2017年1月号掲載分)

第4出動ってのは、元々消防用語らしい

第1出動は、火災等が発生したときの基本出動
第2出動は、それじゃ足りなくて、消防隊増強の要請があったとき
第3出動は、災害が拡大し、第2出動でも足りない場合の出動

そして、第4出動は、さらにさらに災害が拡大し、
第3出動までの消防隊では対応が困難な場合の、最大級の増強要請

100年を超える東京の消防の歴史の中でも、
第4出動は2回だけ。

品川勝島倉庫爆発火災と、ホテルニュージャパン火災

いま、私に本気の第4出動がかかった。
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倫子は状況が全く呑み込めない。
33歳にして、やっと掴んだ早坂さんとの平穏な日々に、緊急事態などあるものか。ふと頭をよぎったのは、今日の夕食。

「あたし…今日…すき焼き…じゃなかった、鶏の水炊き…」

「そう、良かったまだ鶏で、牛じゃなくて」

飲み屋の看板娘、友人・小雪が冷静に突っ込む。

「倫子!さあ、鍋は諦めて、すぐお出かけの準備して!泊りも考慮に入れて、メイク道具も全入れで」

「ハァ!?何言ってんの、あんたたち。あたし、今日早坂さんと2人でシャンパン開けて」

「だから、状況が変わったんだって!!これは、女子会の恋バナとは違う、ホントの本物の第4出動!!」

言い争っていると、突然、倫子の電話が鳴った。

「ああっ、ほらっ、電話だ。早坂さんかも」

「鍋断れ!!!」

よく見ると、知らない番号。
電話の主は、以前、脚本家の倫子がローカルCMの撮影で行った際、一緒に仕事をした北伊豆の山田さん。
伊豆の長閑な浜辺から、電話をかけている。

「すみませんね、急にお電話しちゃって…僕たちもびっくりしちゃってね…」
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え…?
倫子は驚いた表情を見せる。

「しかも、寝てるんですよ。たぶん酔っぱらって寝ちゃってるんだね、コレは。どうしよっか?」

電話口の後ろから、友人達が怖い表情で見つめている。脚本家で後輩のマミちゃんは、倫子の様子を見て聞く。

「KEYさんですか!?」

倫子は彼女達に、事情を説明するや否や、
無理矢理拘束され、マミちゃんの運転する車の中に押し込まれた。

猛スピードで伊豆へ向かう。

「いやいやいや、おかしいでしょアンタ達」

「さあ、時間はたっぷりあるから。マミちゃん、例のビデオ見せちゃっていいんだよね!?」

「どうぞ。倫子さん、これプロとしてあるまじき守秘義務違反ですけど、私も干され覚悟でこのお2人にリークしたんで…だから倫子さんもきちんと受け止めてください。これ、私の恩返しです。びっくりしないでくださいね、倫子さん」

ビデオには、笑顔を見せる幼い頃のKEYと、後に彼の妻になった女医さんが映っていた。
倫子は呆然とする。その女医さんは倫子に雰囲気がそっくりだった。

「……驚いた?」

「つまり、KEYさんね、その女と倫子さんを重ねてたんですよ。もちろん、重ねるってのは悪い意味じゃなくて、初恋の人に似てるから好きになるって、自然な感情じゃないですか」

「に…似てないよ…あたしこんなキレイじゃないし」

「いや、似てるよ、顔も雰囲気も」

昔から側にいる友人達に言われては、反論もできない。

「ちなみに、その人が亡くなったのは、33歳の時だそうです」

倫子は衝撃を受ける。今の自分と同い年だ。
今まで彼に言われた、数々の厳しい言葉を反芻した。

このタラレバ女!!

ああ、そうか
あいつは、私たちに意地悪してたんじゃないんだ。

本当に腹を立てていたんだ。
私たちが、酒飲みながら愚痴ばっか言ってるから、
文句ばっかり言ってるから、
そうか
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KEYはソファの上で寝ていた。

「鍵谷くん」

ふんわり、先生の声が聞こえる。

「大丈夫?酔っぱらっちゃたの?」

先生は優しく彼の頭を撫でた。

「だめよ、せっかく病気が治ったのに、そんなことしちゃ。私、心配だよ鍵谷くんのこと。ずっとずっと心配してるんだよ」

ハッと目を覚ます。
見慣れない場所に、自分が北伊豆に来ていたことを、途切れ途切れの記憶の中から思い出す。

「あ、起きた。大丈夫かい?今コーヒー入れてあげるよ」

「大丈夫だよ、先生が迎えに来てくれるって」

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「もう、車でこっちに向かってるって。面倒見のいいお姉さんたちいて良かったね!」

KEYはうつむいた。
先生…この世にいるはずのない人を想像した自分に言い聞かせる。
愛する彼女は、もうどこにもいないのだと。
癌で亡くなった自分の主治医、そして14歳も年上の妻。


一方、倫子たちは、どんどん彼の元へ近づいていた。

「倫子、気持ちの整理はできた?」

「気持ちの整理って言われても、あいつに可哀そうな過去があったとして、もうそれは私には関係ないことだし…。それに、もうあたし早坂さんと暮らし始めたんだよ?今更、あいつとのこと蒸し返したくないよ」

「ぶっちゃけ、それが原因じゃないの?一度ならず、二度までも好きな人を失っちゃったから、自暴自棄になってるとか」

「はっ………まさか!」

ネイリストの友人・香が突然奇妙なことを言い出した。

「人生には3つの坂がある…上り坂に下り坂………そして、ま坂…」

「な、なに言ってんの、香」

「どうする?そのまさかだったら」

「いやいや、それはない、それはない」

「訊いてみればいいじゃないですか!着いたら、KEYさんに”私のこと好きなの?”って訊いてくださいね!」

ひとり若いマミちゃんが、ばっさり斬る。
さすがに、小雪が倫子を援護する。

「マミちゃん、あのね…30オーバーの女にゃ、それができないわけよ…」

「えーっ、何でですか。簡単じゃないですか。もし好きじゃないって言われても、それはそれでスッキリ次に進めるし、そこをはっきりさせるための、第4出動でしょ?」

「な…あんなの、ギャグで使ってただけじゃん。女子会用のただのおふざけ用語でしょ」

「いや、KEYさんフツ―に倫子さんのこと、好きだと思うんですけどねー」

3人は固まる。
天才脚本家のマミちゃんがはっきり言ったのだ。

「どうする倫子…もしあいつが…」

「やめて、あたしもう早坂さんと幸せなの!」

頭を抱えて、ブンブン振る。
そう、いかに普通の幸せが大事か、ようやくわかったのに。

「2人とも知ってるでしょ。早坂さんのおかげであたし、やっと幸せになったとこなの!やっと、あいつらも出てこなくなったとこなの」

「もし、あいつにはっきり好きだって言われタラ…」

「そしたら、倫子は早坂さんと別れレバ…」

「言わないで!!!!!!!」
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倫子の脳内に、タラレバが現れた!

「倫子さーん、ごぶさタラしてまーす☆」

「いや~、見れば見る程ヤバい状況」

「せっかく掴んだ幸せを、自らぶち壊すあなたのその勇気に、我々感動すらしてるタラ~~~!」

「いよっそれでこそ、タラレバ娘レバ」

倫子は脳内のタラレバ達に、罵声を浴びせる。

「うるさい!!消えろ!!もうあんたたちの出る幕はないの!!あたし幸せになるんだから!安心できる人見つけたんだから!」

「安心?じゃあ、なんでこの車に乗ったんタラ?」

「そっ…それは、この3人がむりやり…」

「あらあら、まーた女友達のせいにして…本当はあいつのことが忘れられないんタラ?」

頭に焼き付いた、あいつとの記憶がよみがえる。
一度きりの甘い夜の記憶。

「本当はいつもいつも、あの時のことを反芻しながら、生きてるくせに!この反芻女!」

倫子は真っ青になりながら、
電話音で現実に引き戻された。

電話に出ると、それは早坂さんからだった。

「今ね、ロケが早く終わったから…近くのスーパーで買い物してこうと思って」
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倫子は電話を切ると、皆に告げた。

「マミちゃん、車止めて。あたし降りる!!」

「えーっ、無理ですよ。高速っすよ今」
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「そのための第4出動でしょ!!」


訊きたいことは、沢山あった

あの時も、あの時も…
どうして私と、あんなことしたの?

どうして、私とじゃ恋愛できないの?

何も訊けないまま、全てに蓋をして
新しい男に逃げた

しかし、なぜだか女友達ってのは、その逃げを許してくれない。女同士の友情は、いつだって自分のことは棚に上げ、なぜか自分以外の女には、真実の愛を追求させたがる。


倫子を乗せた車は、ほどなくして北伊豆に到着した。
車のクラクションにKEYはピクッと反応する。

「おーい、来たぞ先生」
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Comments
ドラマで話題の「タラレバ娘」。
坂口健太郎を目当てで見始めたものの、すっかりハマってしまいました。。コミックも一気読み、いつもの通り我慢できずに雑誌を追いかけ始めるという…

ザ・少女漫画やファンタジー系しか興味なかったはずなのですが……グサグサくる現代物の漫画を、苦しみながら読むという謎の現象が起こっています。
いや、タラレバ娘は実に深い。面白い。
そして、共感できることが多すぎる。汗

コミックス未発売の26話からお届けします。
今までになく、盛り上がっている所です…


紆余曲折の末、早坂さんと落ち着いたと思いきや、タラレバ娘達は止まらないですね。笑
倫子の心の葛藤が、苦しい。
そりゃ、甘い思い出は反芻しちゃいますよね…
KEYくんは、もう死んだ奥さんにとらわれ過ぎていて、ただただ切なかった。

そして、女友達のパワーがすごすぎる。
頼もしいやら、迷惑やら…
でも、友達だから!という理由で動けちゃうものなんでしょうね。


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