※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください。

Story (LaLa2017年3月号掲載分)

第一王子メフライルはミーシェの側に寄り、王妃に告げた。

「母上にとって邪魔な存在なら、この娘、私がもらっても良いでしょうか?」

カルムは、兄の真意を探るような視線を向ける。
王妃も何を思案しているのか、無言のまま。
辺りはシンと静まり返る。

張り詰めた空気を破ったのは、ミーシェ。

「…い、一体どういう事ですか、何で、私を…」

「兄上」

カルムは彼女を背に庇うように、メフライルとの間に割って入った。

「少々不躾ではありませんか、主人である俺の前でこの娘を欲しがるとは」

「ああ、妻にしたいわけじゃないよ。私の後宮には合わないから…あっ、元気があるのは良いことだと思うよ?」

「む、無理にフォローしなくていいです」

ミーシェの適切な突っ込みに、メフライルはふっと表情を緩めた。

「母上に追放されるよりは、私が貰った方が良いだろう?」

「利用すると分かっていて、大人しく引き渡す訳が無いでしょう」

ミーシェは何が何だかわからないと言った様子。
王妃は、王子達ではなく、そんな彼女の姿を観察していた。
そして、近くに控えていた従者に声をかけた。

「…その木剣を二人に渡せ、余興だ」
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「な…」

「カルムが勝てば追放を取り消してやる。悪い話ではあるまい。」

メフライルは上着を脱ぐと、ニコッと笑った。

「私は構わないよ」

彼の妻たちが、一斉にざわめき立つ。

「まぁ!お二人の勇姿を拝見できるなんて、幸運ですわ」

カルムも上着を脱ぐと、ミーシェの頭に放り投げた。

「下がっていろ」
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二人の王子は木剣を片手に、対峙した。


「―――それでは、始め!」

合図と同時に、鋭い勢いで剣を交える。
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「うそっ、カルム王子が押されてる!?」

「あの二人同じくらい強いんだよ」

観衆が口々に、彼らについて盛り上がる。

「メフライル王子は剣の腕も立ち、頭も良い。次期国王と称されるのも頷けますな。」

「まぁ、それはカルム王子も同じですよ!」

コレルはミーシェに声をかけた。

「こうなっては仕方がないな、大人しく守られていなさい、ミーシェ。それが王子を立てることになる。」

ミーシェは少し俯き、考えた。

「…私はそうは思いません」

守られて、側にいるなら、今までと何も変わらない。


カルムは激しい攻撃をかわしながら、兄に問いかけた。

「…兄上、あなたがあの娘を欲しがる理由は…」

「察しの通り、アナトリヤ国アーレフ王が飼っていた奴隷……だからだよ。東の国カタートと南西の国アナトリヤ。両国とは戦と同盟を繰り返しているけれど、君はどう考えている?」

「…二つの国に繋がりはないはずですが、手を組まれたら厄介でしょうね」

メフライルの一撃を止めるカルム。

「そう、そしてその可能性を、あの娘が示した。…先ほど詠んだカタートの歌。あれは恐らく奴隷時代に身に着けたものだろう。」

アーレフ王は奴隷達を、取引の贈り物として使っていた。

「…つまり、アーレフ王は贈り物を渡し、カタートと繋がりを持とうとした。いわば彼女はアーレフ王の情報源になるというわけだ。」


王妃は彼らの戦いを見て、状況を素早く察知する。
…一見穏やかに見えるが、メフライルは分かりやすい程に攻撃的。
守り重視のカルムは、なるべく争いは避けたいといった所か。

はぁっとため息をつく。

「…どちらも、まだ甘い。妻達も何も思案せず、ただ楽しむだけとは…」

ふと、目前でミーシェが頭を下げていることに気がついた。

「…王妃様、どうか、この勝負を止めてはいただけませんか」

「…勝負をやめて欲しいだと?おかしなことを言う。カルムが勝つ以外、お前が後宮にとどまる道はないのだぞ。」

ミーシェは少し複雑な表情をした。

「:…分かっています。ですが…この勝負を王位継承と繋げてみている者もいます。そんな中で勝負をつけてしまえば、望まない形で噂になる恐れもあるのではないでしょうか…」

ふと目を閉じ、カルムにかけられた言葉を思い出した。

守ってやる…

甘えてはいけない。

王妃は、彼女のまっすぐな瞳を見ながらも、ぷいと顔を横に向けた。

「それらしい言葉を並べるのは、誰にでもできる。話は以上だ、下がれ」

…やっぱり、ひねくれてる…
ミーシェは戦いを止めない王妃を見て、自分で立ち上がった。

「王子達っ、もう止めなよ!こんな勝負なんの意味もないよっ」

メフライルが彼女の声に反応した。

「おや、やめるということは、私の元へ来る気になったのかな」

「なりませんっ」

「出しゃばるな阿呆、賞品らしく黙って座っていろ」

カルムの言葉にカチンとくる、ミーシェ。

「誰が賞品だ!」

全然、聞く気のない彼らの様子に、ミーシェは走り出した。

「もう、どうなっても知らないからね!」

メフライルは彼女の様子を傍目で見ながら、くすっと笑った。
力を込めて、剣を振るう。

「!!」

かろうじて受け止めたカルムは、ぐらっと体勢を崩しよろけた。

「…面白いね、あの娘。活発で気丈、予測不能で見ていて飽きないし、私の妻にはいない性格の娘だ」
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一瞬の間、
カルムはメフライルに足をかけ、体勢を崩すと一気に押し倒した。
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「…叶いませんよ。俺の勝ちですから。」

メフライルは一瞬驚いた表情をしながら、にこりと笑った。

「…いや、相打ちだ。」

カルムの胴部にも、彼の剣が食い込んでいた。
さっと起き上がって、お互いに最後の一撃を交えようとした瞬間、

ミーシェが彼らの間に飛び込んできた。

カルムの動きがピタッと止まる。
剣の切っ先は、彼女の一寸前で止まった。

「…や、やっと止まった」

カルムは怒りの表情で、ミーシェの頭をわしっと掴む。

「危ないだろうが」

「カルム王子なら当てないって信じてたから!」

カルムは少し表情を揺らして、ミーシェに向き合った。

「…兄上の所へ行きたいのか?」
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「カルム王子に助けられても、私が認められたことにはならない。私は堂々と側にいられるようになりたいの!」

時間がかかっても、追い出されても、カルム王子が許す限りは…諦めたりしない。

ミーシェはメフライルに向き直って、頭を下げた。

「…という訳で、メフライル王子の元へは行きません。ごめんなさい」

「それは残念だな、君のことをじっくり観察したかったんだけど。勝敗はつかなかったし、今回は引き下がるよ。面白い発見もあったことだしね。」

にっこり微笑むと、その場を立ち去った。
歩きながら、彼は先ほどのカルムの表情を頭に浮かべていた。
…私が妻に迎えるといった瞬間、カルムは本気を出した。…いや、無意識に出た…かな?


ミーシェは王妃にも、頭を下げていた。
ひんやりとした空気が流れた。

「…娘、お前にひとつ言いたいことがある…私のお茶会で撲殺されるつもりか」

ひぃぃぃ

「もっと穏便に止めることはできんのか!それから大声で叫ぶな、見苦しい!大股で走るな、静かに歩け!!」

「お…おうひさまも今叫んで…」

「やかましい!!!」

「元よりこの勝負は、お前を含め、皆の動向を見るためにしかけたもの。身分の事を差し置いても、王子の妻には程遠いわ」

ミーシェは一気に気落ちする。
…やっぱり、追放されるのかな。

「…だが、王子達を案じ止めたのは、お前だけだった。あの詩も見事なものだった。またいずれは聴かせてもらおう」

ミーシェの頬がみるみる染まった。

「あ…ありがとうございます!またご指導の程、よろしくお願いしますっ」

「誰かあの娘を黙らせろ」

…とりあえず、まだしばらくはカルム王子の側にいていいってことなのかな。


茶会は終わり、ミーシェとカルムは部屋に戻って来た。
カルムはつんと外を向いたまま、彼女と視線を合わせようとしない。

「もう、勝負止めた事、まだ怒ってるの?何度も謝ってるじゃない」

「…お前は隙が多い」

「…え?」

「だから、兄上に付け込まれるんだ」

「そんなことないよ、ちゃんと自分で断って解決したし」

「どこがだ阿呆、お前を妻にしようかなとか言っていたぞ」

「はあ!?そんなの嘘に決まってるでしょう」

カルムはそっぽを向いたまま、答える。

「本気だったらどうするんだ」

「どうもしないよ…。ちょ、もしかしてそんな事で怒ってたの?いい加減こっち見て――…」

ミーシェはカルムの腕を捕まえて、引っ張った。
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「な、なんて表情してるの…」

初めて見るカルムの表情に、ミーシェは鼓動が高鳴る。


「…俺に守られるのは、嫌か」

「う、嬉しかったよ」

彼はミーシェの手を取ると、ゆっくりと流れるように、自分の方へと引き寄せた。

「そうは見えなかった」

「ほ、本当だって…」

そのまま、彼女の腰に手を回し、優しく抱き寄せる。
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…もしかしたら、カルム王子も同じ気持ちなのかな。
側にいたいのは、私だけじゃないって思ってもいいのかな。

近づいた彼との距離に、思わず目をぎゅっと瞑るミーシェ。
カルムはその様子を無言で見つめる。

「…そこで目を瞑るか。本当に隙だらけだな」

カルムは彼女の鼻をきゅっとつまんだ。

「ふむっ」

ずっとこのままでいたい。
お互いの想いが重なった優しい空気が、2人を包み込んでいた。




Comments
いや、もうカルム王子にやられました…
いつも攻めの王子が、ミーシェの態度に拗ねるとかギャップがやばい。

本当にミーシェのこと、大事なんだなと改めて感じました。
言葉の端々がミーシェの意志を汲んでいて、素敵だなと思います。優しい。
そして、この2人が作り出す明るい雰囲気好きです。
ミーシェを正妻に迎えて欲しい。

メフライルは、まだまだ仕掛けてくる気満々でした。
カルムにとっては、一番手ごわい相手でしょうから、彼も警戒するわけですね。
どうなるのか気になります。

次号は、新章開幕&初表紙だそうです!
おめでとうございます!楽しみ!






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