※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください。

Story
津軽の心
(BELOVE 2017年2号掲載)


津軽の家の前で、佇む鈴子
持ってきた饅頭をぐっと握りしめる。

津軽にどう声をかけようか、一人思案していた。

元気にしてた?お腹すいてない?
お饅頭かってきたよー
お届け物でーす
コレなあ~んだ
腹が減っては戦はできぬよ!

うん…こんな感じで切り出せば大丈夫…

頭にいくつも言葉を並べながら、門をくぐると、
縁側に腰かける津軽の姿が目に入った。

あ……

「―――つが…」

彼はまだ闇の中で、ひなとの会話を思い出していた。

ああ…だめだ…
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やっぱりもう少し、時間を置いたほうがいいのかも……

鈴子は何も告げずに、来た道を戻る。

津軽は自分の事よくわかってて、
いつだって、ちゃんと答えを一人で出せる人だし
冷静で大人な人だから…

…そうじゃない、違った
そんなふうに思ってたのは小さな私
津軽はなかなかそう見せないだけで、それほどできた人じゃなかった
ほんの少しの事で、沈んだ顔を見せてた

鈴子は門の前で、再び進む向きを変える。

やっぱり今話さなきゃ!!
…でも、どうやって津軽の気持ちをこっちに向かせよう?
これだけじゃ弱い…

何か強いとっかかりがほしい―――

「あらあらぁ」

ふと、背後から聞きなれた声が聞こえた。
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津軽母は怪訝な顔になった。

「ぼーっとしてるってことね?」

「心ここにあらずというか…」

「寝ぼけたままなのね?」

「いえ…そうじゃ……」

「そんな面倒なのぶったたいてやっちゃいなさいな!」

そういうことじゃないんだけど…

あ…でも、そういうことでいいのかも?
たたくのはちょっとアレだけど、目が覚めるようなこと…
津軽のために私ができそうなこと…

その時、急に風がざあっと吹き荒れた。
鈴子の髪の毛がバッと舞い上がる。

「風が吹いてきたわねぇ、鈴ちゃん大丈夫?」

「はいっ」

髪を整えながら、鈴子は何か閃いた。

「おばさま!お願いがあります!」


津軽は部屋で独り、うつむいていた。
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ひなが死に、鈴子達と別れた後のことを思い出す。
津軽は愛染を追っていた。

「逃がしはしないというわけか、情けも哀れみもない男だな…まあいい、埋葬も済んだ。ひながいなくては俺の野望も成り立たない。翼をもがれたんだ、諦めるさ。ひなは――もっとも近い俺の支持者だった。お前にとってはどうだ?少しは―哀れと思ってやったか?」

ふと、ひなの笑顔が浮かぶ。

「津軽、試験が終わったらまた行こうね。海沿いを旅しよう」

叶えることのなかった約束
どうしたというんだ、私は―――…

ふと、自分を呼ぶ声が遠くに聞こえた。

「津軽…津軽っ!」

物思いにふけっていた津軽は、現実に引き戻された。

「あ…ああ、ごめん気がつかな…」

心ここにあらずの表情で、声の主を見上げた。

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一瞬、固まった。
次の瞬間、叫び声をあげる津軽。

「えええええええええー!」
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「こんなにあわてる津軽初めて見た…」

慌てる津軽をよそに、鈴子はのんびりと津軽の様子を観察している。

「そりゃあ、あわてるよ!!そんな悲惨な髪になって!!!」

ふと、微笑む鈴子。

「やっと私を見た」

「見…!?」

「おまんじゅうあるから、お茶淹れるね」

くるっと向きを変える鈴子に、慌てて後を追いかける津軽。

「いやいやいや、お茶より何があったか説明して!ただごとじゃないよね!?」

津軽をじっとみて、鈴子は少しほっとした表情を浮かべた。

「よしよしいつもの津軽だ」

「やっぱり君…記憶が…」

「さすがの津軽もこれなら驚くと思って、やってみたの。切り過ぎちゃったけど…」

津軽母がなかなか左右対称にできずに、どんどん短くなってしまったようだ。

「え……?驚かせるためだけ?それだけで髪を切るなんて――…」

「ほら、びっくりしすぎて我に返るしかないでしょ?」

「……そのために……」
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「そんなことないよ、私は元来薄情な人間だから、そこまで悲しんでない」

津軽は鈴子と視線を合わせない。

「どちらかというと、絶望してるかな。彼女の死を心から悼むことのできない自分に…私は最後の最後で彼女に負けたのかなって。そんな自分のことを考えてしまう。私は私自身にがっかりなんだ」

「津軽は案外自分のことわかってないよね。私は二度も津軽に出会ってるからわかるよ。津軽はなんでも一人でできちゃうし、理詰めで強引に解決しちゃうから、気がつかないんだよね」

鈴子はビシッと津軽を指さす。

「津軽自身も気づかないフリしてる。自尊心が高いから!」

「褒めてないよね?」

褒めるつもりないもの、とバッサリ切る鈴子

「いやな部分も多いし!勝手だし!ずれてるし!子供だし!」

「言いたい放題だね…」

「津軽は薄情じゃないよ…津軽は聡いから先のことまで見えてしまうでしょう。心を痛めると疲れるから、傷ついてないって自分を押し込めるの…だから、達観したふうにかっこつけてる。本当は誰よりも情に厚い人なのに」

そう、薄情な人は、昔の恋人のために海を渡ったりしない
ウソを黙って受け入れるはずがない
誰かのために怒ったりするはずない
いろんな人の心の内をわかったりするはずない

ただ少しの縁だけで、遊郭に売られた子を助けるはずがない

それが、二人の私が見つけた津軽だもの

「津軽はきっとすごく悔いてるんだね」

津軽はひなとの思い出が頭によぎった。

あの時―――
ひなに結婚を迫られた時…

私がもっと早く異変に気付けていれば、違ってたかもしれない…

再び彼女に再開した時、船の上で彼女はこう言った。

「来てくれると思ってた。津軽は優しいから」

影を抱えて笑う…
あの無垢な笑顔を失うこともなかったかもしれない――

鈴子は津軽が何を考えているのか、何となくわかる気がした。
愛は…ここにもある。
ひなが津軽の心を占めている。すこし、寂しい表情を浮かべる。

解放しよう、津軽
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「はっ、私はそんな―――…」

言葉を継ぐことができず、湧き上がる何かに片手で顔を覆った。
そのまま、椅子に腰を下ろす。
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見ちゃいけない
これは、ひなさんに送る涙

鈴子は津軽に向かって手を伸ばした。
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Comments
す…鈴ちゃんがショートヘアに!!!!
驚いた。
津軽の混乱している様子が可愛いかったです。出家って…笑

長い髪をアレンジしている鈴子が好きだったので、少し残念ですが…
急に大人っぽくなって、素敵ですね。
色々乗り越えたおかげで、大人っぽい髪形が余計似合うのかも。

ずっと津軽の側にいた鈴子だからこそ、かけられる言葉の数々でした。
彼を解放しようと贈った言葉は、津軽に届いたようですね。
やっと泣けたんだろう、津軽は。

鈴子は本当強くて素敵な人だなと、改めて感じました。
津軽の心はひなでいっぱいだと知りながら、彼に救いの言葉を贈れるなんて。


…なんと次号はお休み。。
2/1…長い…
早く恋人らしい2人をみたいです。

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