※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください。

絆のいろ (BELOVE 2017年1号掲載)

津軽の顔を もう十日も見ていない。
あの日、あのあと何も話すことなく別れた。

「いろいろと終えることがあるから、彼女のことあとは任せたよ」

津軽はそう春時に告げて、去っていった。

帰ってからもかける言葉が見つからなくて、
どう話していいのかわからなくて…


「鈴ちゃん」

通りの向こうから河内が笑顔で声をかける。
2016-12-15-00-15-46

あの日以来、兄様とも全然会ってない。
帰りの汽車でもほとんど会話はなくて―――…

「記憶は全部戻ったのか」

「うん」

「そうか」

そしてまたずっと沈黙が続いて、そのあともあまり長い会話にならなかった。


河内と鈴子は並んで歩く。

「なんかいろいろあったみたいだもんなぁ」

「河内…どこまで知ってるの?」

「ひなさんが亡くなったって聞いただけ。でも津軽の憔悴した姿をみたら、だいたいわかるよ。」
2016-12-15-00-16-07
「…ひなさん、私をかばって亡くなったの」

河内はとても驚いた表情を浮かべる。

「そうなの?――――そっかぁ、じゃあ早く元気出さないとね。暗い顔させるために助けたんじゃないだろうし、私のせいとか言ったら、助けた気持ちが報われないよ…。ほら、子供を助けようとして自分が死んじゃったとかあるじゃん?あれと一緒だよ。不可抗力」

河内は少し微笑みながら、でも真面目に鈴子に向かう。

「だから―――ひなさんのことを思うなら、感謝して元気に楽しく過ごすのがいいんだよ!」

「河内って…ほんと河内…」

「不謹慎だったかな…」

鈴子は久々に微笑むことができた気がする。

「元気出る。ありがとう」

image
「あ、じゃあ僕はここで!鈴ちゃん津軽のとこにも顔出してよね」

河内は笑顔で去っていった。

「久しぶり…だな。手の傷は大丈夫か」

「うん…傷は一応ふさがってるし、そのうち痕自体も薄くなるだろうって」

「残るのか…すまない…」

「ぜんぜん気にしてないよ!ひどさでいったら額の方がよっぽど残るし。それにこれは兄様を守った証だから、むしろ誇らしい。」

春時は鈴子をちらと見て、瞳を閉じた。

「じゃあ、行こうか。墓参りに」


桐院家の墓の前で、二人手を合わせる。

「鈴子…おまえに、話してないことがある。夕香姉様はここにはいないんだ」

「…そうかもなって思ってた。兵役の嘘と同じように、きっと兄様は私のために優しい嘘を言っているのだろうって。兄様が私にそう思わせたいなら、それでいいと思ってた。――――でも、そうすることが兄様を苦しめたって今は思ってる。」

鈴子はひなのことを思い浮かべた。
ウソをつくってことは、一人で何もかも抱えちゃうこと
ウソをつかせちゃいけなかった。
独りで抱えさせちゃいけなかった。
ありのまま向かってくれていいの。

「兄様はずっと、昔のことを一人で抱えているけど、私は全部知ってるし、全部受け入れてるし、隠したり嘘をついたりすることは何一つないよ」

鈴子はまっすぐ春時を見据えて告げた。

「兄様だけが気に病む必要なんて、どこにもないの。記憶のある鈴子は全部受け止めてるよ…。兄様の一番の望みは何?」

春時は視線を下に落としながら、語り始めた。

「愛染の女が死んだときの様はまさしく俺が一番望んでたことだった。」
2016-12-15-00-22-40
そうすれば、今の幸せがなくなる時を恐れなくていい。
失うことにおびえなくていい。

相手の心を手に入れる唯一の方法。そう思い込んでいた。
2016-12-15-00-16-56
俺はこんなことを鈴子に望んでいただろうか
鈴子にそういう思いを一生抱えさせたかっただろうか

本当に―――?

「愛する残されたものがそのあとどう思うか、そのことよりもただ自分が救われたくて逃げてただけだ。おまえを想っていると言いながら、俺はどこまでも自分のことしか考えてなかったんだろう。」

「兄様…」

それからずっと考えてた。俺はどうしたい。鈴子とどうなりたい?
俺自身はどうなりたい?

「考えてひとつの結論を出した。鈴子俺の願いを聞いてくれ。」

春時はまっすぐ鈴子を見つめる。

「家族になろう、本当に」

はっきりと告げた。

「誰にも奪われないたったひとつの絆をくれ。妹としてずっと近くにいてほしい。」

記憶を失っていた間、兄様は鈴子にとって、胸をときめかせる存在でした。
愛しい。
この人を幸せにしたい…

「私は…」
2016-12-15-00-17-15
2016-12-15-00-21-19
2016-12-15-00-17-24
何が一番欲しいかと、問われたら―――
ひとつだけしか手に入らないなら、
決して切れることのない、絆を選ぼう―――…


「だからね、私は兄様のとこで暮らしていいって話になってるの。親戚全員に財産や事業分配するみたい。兄様や佐之次ともゆっくりあって話したいって」

帰り道、二人は昔に戻ったように…昔以上に楽しい兄妹の会話を続けていた。

「それで今度―――」

「あれから藤島には会ったのか」

鈴子はすこし面喰った表情を見せた。

「ま…まだ…もう少し準備がいるかなって、先におばさまに会いたいし…」

うつむいた鈴子の様子を春時は見逃さなかった。

「あ、おまんじゅう!!おばさまに買って行こう」

「鈴子が食べたいだけだろう」

「そ、そりゃあ食べたいですけど」

「ほら」

「おばさまにです!」

「途中で全部食べたり。小さい頃にあった」

「兄様私を信じてない」

「信じてるよ」

鈴子は少し驚く。

「食いしん坊だって」

「ひどいーーーっ!もぉーーー」

鈴子は春時をぽかぽか拳で叩く。
いつのまにか春時はまんじゅうを買い、鈴子に渡した。

「あ、ありが…」

「藤島に届けるんだぞ」

「…え…」

「そうやって引き延ばすと、どんどん会いにくくなる。時間を置いたって変わらない。一人で考えてたって、いいことなんて何もない―――考えるより先に行動するのが、鈴子だろう。藤島は俺よりねじ曲がっているから、ほっとくとめんどうくさいぞ」

別れじゃない、譲ったわけでもない、俺が選んだだけ。
2016-12-15-00-17-39
「―――――お行き」

鈴子は兄を振り返りながら、重い足取りで津軽の元へと向かった。
彼女を見送りながら、春時は考える。

やっぱり、胸は痛む――苦しい――この苦しさが時とともに薄れることを信じたい。

何ももってないと思っていたころとは違う―――何も失ってない。
手の届くところにすべてある。

今なら七夕のあの短冊に何を願うだろう。
鈴子の幸せ…?

いや、そんなこと願わなくても、鈴子は勝手に幸せになる。
じゃあ、自分のことを?

欲しいものないし…何かになりたいわけでもない
何も思いつかない

ああ――ひとつ…こういう時に誰もが書くような願いがあるじゃないか。
普通の真理だ
単純で明快な願い――

「みな、健康で長生きしますように」


*************************
う…春時兄様…!
ほんと誰か心安らげる人が現れてほしい。
幸せいっぱいになってほしい。

「家族になろう、本当に」という言葉が響きました。
この結論を導き出すまでかかった、長い長い年月を思うと…胸が詰まる。

鈴子の返事も素敵でしたね。
とても恋に近い、愛でした―
何か切ないようで、でもまっすぐに兄を慕う可愛らしさも含んでいて、
鈴子らしい言葉だなと思いました。

津軽憔悴しきっているようですけど、最後はビシッと決めてほしい
……あまり津軽っぽくないけど。笑
またまた続きが楽しみです。
次号は12/28発売とのこと!

おすすめマンガ一覧へ
名場面集へ



最新刊第9巻 発売中!