※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください。

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「またいつか逢おう 兄弟よ」 

初代四龍の絆(暁のヨナ 18巻収録)

遠い昔、神話と呼ばれる時代。
平和な世を導くために、緋龍は天から降り、人間の王となった。

その名も緋龍王。
彼は龍神の力を持つ4人の戦士達と共に、
周辺の乱を次々平定し、高華国の領土を大きく広げていった。

白龍・グエン、青龍・アビ、緑龍・シュテン、黄龍・ゼノ。
彼らは龍の血を飲み、その力を得た戦士達。

白龍は何もかも引き裂く鋭い爪を
青龍は彼方まで見通す眼を
緑龍は天高く跳躍する脚を持っていた。
黄龍のゼノだけが、与えられた能力がよく分からず、ひとり思い悩んでいた。

四龍の戦士が勢ぞろいして、いつも通りギャーギャー喧嘩が始まろうとしている様子を、緋龍王が微笑ましそうに眺めている。
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「ゼノどうした?」

「王様、俺は軍の指揮とか部族長とか向いてねェよ。俺は四龍の中で何の力も持ってねぇし、戦場で足手まといになるだけだ。」

ゼノは少しうつむきながら、胸中を語った。
年長の白龍と緑龍はゼノ気持ちを察しながら、少し真面目な表情になる。

「そいつ黄龍から頑丈な身体をもらったって言うが、嘘だぜ。」

「この前はこけて擦りむいていたもんな。」

「でも傷の治りは早いから!」

ゼノはその力を証明するために、わざと手を岩壁に思い切りぶつけた。
ガリッ
傷口から血がポタポタこぼれ落ちる。

「~~~った」

「馬鹿お前、何やってんだ!」

「おいおい、大丈夫か血が…」

白龍がゼノの手を掴んで引き寄せると、傷口がスッと消えた。

「え…傷が…ない…」

「すごいだろ!」

ゼノが満面の笑みで嬉しそうに自慢する。
盛り上がる四龍達をよそに、緋龍王はただ一人何かを悟り、無表情のままその場に凍っていた。
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突然、緋龍王はゼノを思いきり抱きしめた。
無言のまま時が流れる。

「……王様…どした?」

王はゼノを離すと自分が下げていた首飾りを外し、ゼノへと手渡した。

「私が地上に降りた時、龍達から賜ったものだ。お前に授けよう。私は常にお前と共に在るという証だ。」

緋龍王は優しく微笑みかけた。
ゼノはなぜ王が自分だけに大事なものをくれたのか、この時はまだよくわからなかった。


前から力のないゼノに闘わせなかった緋龍王は、この時からゼノを決して前に立たせず、白龍・青龍・緑龍の力だけが戦場にて神の力として崇められ、恐れられ、狙われていった。

「ボウズ!青龍をつれて後方へ…!」

兵はまだまだ押し寄せる。

「お前が傷つくとあの盆暗王が泣くだろーが!とっとと行け!」

俺は…同じ四龍なのに、誰も守れない…
ゼノが考え事をしていた時、敵の兵が剣を振り上げゼノに襲い掛かってきた。

「しまっ…うわあああああああああああ!」

肩からざっくり斬られてその場に崩れ落ちるゼノ。

痛い…斬られた…俺…死…
その時、ゼノは不思議な感覚に陥った。

え…?
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斬られた傷がミシミシ塞がって、一瞬でもと身体が再生した。

「うわあぁぁぁ、化け物!」

敵兵が一目散に逃げていく後ろ姿を見つめながら、ゼノは放心状態だった。

「な…なんだよ…これ…おれ…斬られた…のに…」

バラバラになっていく心を必死に繋ぎとめるように、ゼノは震える自分の身体を抱きしめた。
頭がグラグラする…吐きそう。

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王は答えなかった。
しかし、ゼノは心のどこかで分かっていた。

ゼノの能力は不死の身体。
皆は年をとっていくが、彼はいつまでも17歳のまま。
永遠にこの世でさまよい続ける。
自分だけ死なない…それは、気が狂いそうな重圧だった。


もともと弱っていた緋龍王は結局ゼノには何も語らず、固く口を閉ざしたまま
人として永久に眠りにつく。
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緋龍王は国を平定したが、小さな争いの火種は常に燻っていて、
王が亡くなってからも、ゼノを除く龍は戦に駆り出されることが多かった。
四龍の存在はもはや、争いの火種となりつつある。

「そんな白龍様!城を出ていかれるなんて嘘でしょう!?」

「聞け、俺らのような力はこの時代には不必要なんだよ。これからは王子を中心とし新たな国を…」

「王子様はまだ幼い!四龍様の存在こそ争いの抑止力としてなくてはならないのです!」

「…俺が残る。」

一同一斉に振り返ると、そこにはゼノが立っていた。
ゼノはただ一人緋龍王からもらった紋章を取り出した。

「俺がここに残って、皆を守るから安心しろ。この龍の紋章は緋龍王が天界より賜り、俺に託された。即ち俺は王の意志を受け継ぎ、天の声をお前たちに伝える者」

「おおお緋龍王…黄龍様が我々の神官様になってくださる…!」

民たちは黄龍に縋った。
その様子をみて、緑龍が声をかける。

「黄龍お前っ…」

ゼノはにっこり笑う。

「お妃さまや王子様も放っとけねえし、しばらく神官の真似事でもして城の奴らを宥めておくよ。だからお前らは気にせず行けよ。王子が成人したら俺ものんびり出ていくから。」

白龍はゼノの言葉を無言で聞いている。
いつまでも若いままの黄龍の姿を目に焼き付けながら、そのことに一切触れることはなかった。

「そしたらお前俺んとこ来い」

「え…」

「城から出たら、俺んとこ訊ねろ!な!待ってるぞ、何年でも、ジジイになっても」

ゼノは一瞬間をおいて、静かに頷いた。
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「魂は繋がり巡る、四龍の血は緋龍との絆は決して消えない。またいつか逢おう、兄弟よ」


いつも一緒にいた四龍はそれぞれの道へ旅立っていった。
城から出ていった龍を見送りながら、ゼノはぼそっとつぶやいた。

「グエン、アビ、シュテン…ごめんな。俺の魂はたぶん天には還らない。この体はたぶんどこにも還れないんだ。」



旅立ちから20年。
ゼノは緋龍王の眠る城で、気がつけばいつも四龍の気配を探っていた。

「神官…!」

「はい、ヤクシ陛下」

「南方の豪族が兵を差し向けたらしいぞ。…迎え撃ったほうが良いだろうか?」

なるべく民を犠牲にしたくない。
それが緋龍王の願いだ。

「…いや、大丈夫。天がきっと良いように」

ゼノはひとり剣を持って、馬を駆ける。敵兵を迎え撃つために。
道中、突然血が沸騰するように熱くなった。

…グエンの命が消えかけている…!?
アビやシュテンの鼓動もまた小さく…

ゼノは龍の紋章をぎゅっと握りしめて、自分の手を見た。

「…俺だけ、俺だけやっぱりそのまんまだなぁ…」

グエン、ごめん来いって言ってくれたのに。
怖かったんだ、年をとっていくお前たちに会うのが。

多くの敵兵が地平線に並んでいる。
ゼノは馬を降りると、震える足を引きずりながら一歩一歩前へと進んでいった。

グエン…待って…行かないで。
アビ…シュテン…あの時役には立てなかったけど、今なら少しは役に立てるかもしれないんだ。
争いは嫌いだけど、こうしていれば…

また隣にいられる気がするんだ

さあ、一緒に緋龍王を守ろう

ゼノはたったひとりで何万の兵に向かって、走っていった。

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「グエン様、おやすみなさい、先代白龍さま…お疲れさまでした…」

グエンは息を引き取った。
それを感じ取ったゼノ。

「グエン…グエン…グエン…」

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どんなに刺されても、例え首を飛ばされても、心がズタズタになっても
痛みは感じるのに、情け容赦なく再生する身体。

「…っ、おう…さま…王さま…っ」

兵士の死体が転がる、血の海の中でゼノは座り込み、天を仰いだ。

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暁のヨナで一番泣いたシーンでした。
ゼノの過去編はやばい。

太陽のように場を明るくするゼノに、こんな重い過去があったなんて…
誰より優しい心を持つ彼が、不条理な世の中を何千年も…永遠に生きなくてはならない。
どうか少しでも心穏やかに生きていけることを願うばかりです。