※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください!!

(花とゆめ 2016年24号掲載)

「ジェイル様は生きることを放棄されたのです」

エスターは無意識のうちに、悲しい過去を背負う父親を抱きしめた。
はっと気がつき、エスターは慌てて離れる。

「あああ、しっ失礼しましたつい…」

ジェイルは苦悩に満ちた表情で娘を見る。
その表情に胸が締め付けられ、涙をこぼしそうになるエスター。
拳をぎゅっと握りしめる。

「今にも…消えてしまいそうで…」

「…そうだな、いっそのことひと思いにふっと消えてしまえば良かった…」

ジェイルは大きな手のひらで顔を覆った。

「メグに…あなたたち双子に…私は不幸しか与えてやれなかった…」

エスターは幼い頃の日々を振り返る。
いつもあたたかい笑顔でエスターの手を握ってくれた、母親。
アルとエスター、メグで街の市場に出かけたこと。
3人で慎ましく暮らした下町の思い出。
決して裕福ではなかったけれど、それは愛の溢れる満ち足りた時間だった。
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「不幸だなんて、そんなわけないです…」

ジェイルは驚いたようにエスターを見つめた。

「お母さんとアル…3人で過ごした16年間は貧乏だけど幸せでいっぱいでした」

レオンも優しい表情でエスターを見守る。

「私たちはとても幸せでした」
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「…だけど、お母さんに寂しい想いをさせたことはちょっと怒っています。」

「寂しい…思い?」

「いつも笑っていたお母さんだけど、たまに月を見上げてそっと悲しそうな顔をしていることがありました。」

エスターは思い出の中の母を語る。

「おかあさん?」

「ごめんねエスター、満月の夜はお父さんとお別れをした日なの。」

「おとうさんてどんなひと?」

「んーそうねぇ勝手なひとだったわね。会わせてあげられなくてごめんね。」

「ううんっ、エスターおかあさんとアルがいればそれでいいよっ」

メグは涙ぐんでエスターとアルを力いっぱい抱きしめる。

「私もあなたたちがいてくれて本当に幸せよ」


エスターは思い出から戻り、父親に向き合う。

「幼い時のことで、あまり細かくは覚えていないのですが、でもお母さんがあなたを恨んでいるなんてこと絶対にないです。お母さんは寂しがっていた。叶うならもう一度あなたに会いたいと…そう願っていたと思います。だから…」

だから…?
エスターは自分が何を言おうとしているのか気がつき驚いた。

駄目、こんなこと言っちゃ駄目だ。
私は吸血鬼ハンターの妻。
これは矛盾だ、だけど私はこのひとに―――

突然、扉をノックする音が聞こえた。
部屋に入ってきたのは…
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「アーサーマクドナルドです。ウィンターソンご当主の婚約者殿に覚えて頂けたとは嬉しいですね。」

「一生忘れられないと思います」

「…アーサー用件は?」

「お話がひと段落ついたようでしたら、客間にご案内させていただこうかと思いまして。長旅でお疲れでしょう。」

レオンは頷き、エスターに向き合う。

「エスターあなたはノアとあのエヴァとかいう護衛と一緒にいてくれ」

「え…」

「俺はギルモア侯爵と話の続きをする。…少々込み入った話になる。頼む」

「…はい」

エスターとノア、エヴァそして、アーサーは部屋から出て、
城の外へと出る。

「あー外気持ちいい。この城気が詰まるのよ」

羽を伸ばしているエヴァをよそに、アーサーがエスターに尋ねる。

「気になりますか?彼らが二人きりでなんの話をしているのか」

「この旅のあいだずっとレオンはどこか思いつめた顔をしていました…私には言えないなにかがある…心配なんです。」


人払いをしたレオンとジェイルは話を始める。
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その頃、アーサーもエスターに答える。
「…昔、ウィンターソン家の惨劇の夜、生き残った邸の者たちの間でまことしやかに噂が流れたそうです。」

「?」

「生き残った邸の者たちの間でまことしやかに噂が流れたそうです。襲撃してきた吸血鬼たちの―――


その会話を遮るように、エヴァがアーサーに襲い掛かる。

「その口を閉じなさい!マクドナルド!」

しかし、エヴァはいとも簡単に捕らえられた。
アーサーは話を続ける。

「襲撃してきた吸血鬼たちの話す言葉が、スコットランドのしかも高地地方訛りであったという噂です」

つまり…

「きっとレオン様は今頃わが主にこう訊ねているはずですよ」

「ウィンターソン家の襲撃の首謀者はあなたなのか」

エスターは衝撃を受けてよろめく。

「つまり、あなたの愛しい人のご両親を殺したのは、あなたの父親かもしれないということです」


レオンは何も答えないジェイルを見つめる。

「…いや、違いますね。あなたではない」

「なぜそう思う?」

「正直先ほどのエスターとの話を頭から信じていいのか私にはわからない。ですがこうして対峙している限り、あなたがそんな愚かな人物だとは思えない。第一、あなたにはそんな真似する理由もメリットもない」

ジェイルはレオンの話を聞きながら、紅茶を口に運んだ。

「あの夜、私は炎の中にギルバートの姿を見た。だが同じく彼にもそんなことをする動機は見当たらなかった。…あなたは知っているのではないですか。真の首謀者の存在を」

ジェイルは突然目を見開き、ティーカップを落とした。

「侯爵?」

ごぽっとジェイルの口元から、血があふれだす。

きゃああああああああああ!
メイドたちの悲鳴の声を聞いた、エスター一行は部屋へと駆け付ける。

ばんっ

「…ちょっと、何よこれ…」
エヴァはその光景に驚き、立ち止まる。
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アーサーが詰め寄る。

「なるほど、ミルクティーに銀の粒が仕込まれていたようだ。これは困ったことになりましたね。」

アーサーは恐ろしい表情で、高らかに宣言した。

「我らが王が毒殺せしめられた。咎人は我らが仇敵、吸血鬼ハンター、レオン・J・ウィンターソン」

レオンもエスターもノアも、蒼白のまま立ち尽くす。

「許すまじ、とらえて牢に繋げ!!!!!」


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最佳境へ突入とのことで、緊迫した展開に!
黒幕はアーサーなんでしょうか。
まだまだ謎が多い…次号気になります。

ジェイルには死んでほしくないです…
過去の後悔よりも、これからに目を向けてエスターを見守ってあげてほしい。。




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