※ネタバレ・画バレを含みますので、閲覧にはご注意ください。

ひなの傷 (BELOVE 2016年23号掲載)

思い出した

思い出した…

思い出したくないことまで

"私は津軽の子供を堕ろしてるの"

鈴はひなの言葉を頭の中で反芻する。
いくら堪えても、目から涙がポロポロこぼれた。

「大丈夫か鈴子」

「いったいひなに何を」

春時と津軽は彼女を案じて、駆け寄り声をかける。

「な…なんでもない!なんでもないから」
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見かねた津軽はひなに問う。

「ひな…君は何を言ったんだ」

「なんでもない!ほんとうになんでもないの」

津軽の言葉で聞きたくない。
嘘かも…しれないし。
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「ねぇ、鈴子ちゃん私と2人でお話ししない?」

「だめに決まっているだろう…」

「君の目的はもともと私だ。この子にはかまうな」

春時と津軽はもちろん止める。

「それならねぇ、津軽早く私と心中しよ。」

津軽は無言のまま、彼女に歩み寄った。
鈴子はひなが自分に向ける視線に何か違和感を感じた。

「待って!ひなさんは私と話がしたいんでしょう。話します2人で」

彼女の目的は津軽じゃない。この人は私を挑発している。
私に何を求めているの?

「君がひなの言うことを聞く必要はないよ。もとは私一人で来るべきところだった。私が話して終わらせる。」

津軽の言葉に鈴子は一瞬間をおいて答えた。

「津軽 言ったでしょ」

津軽は自分への呼び名が変わっていることに気がついた。
え…と声を詰まらせる。

「もう隠したり、ごまかしたりしないんでしょ。全部あとで訊くからね」

鈴子は津軽と目を合わせずに、彼の胸元を拳で軽く叩いた。
私は逃げちゃいけない。
もう顔をそむけちゃいけない。
つらくても、何があっても、何が真実でも
過去の記憶が私を支えている

津軽の頬にほんの少し朱が差した。

「もしかして、君―――」

その言葉の続きは声にならなかった。

「大丈夫だから待ってて」


春時と津軽とは少し離れた場所で、鈴子とひなは対峙した。

「話はなんでしょう。津軽のことなら…」

「鈴子ちゃんに少し私のことを知ってもらおうと思って。ほら…私は死にゆく人だから」

「私には百まで生きそうに見えますけど」

ひなはふと笑った。

「覚えているかなぁ、フランスで出会ったばかりのころ、鈴子ちゃんはカラスに襲われている子猫を助けたことがあったよね。」

鈴子は自然に反しても、自分が嫌だから子猫を助けたと言い張った。

「あの時嫌いだなぁって思ったの、人としての傲慢をためらいなくふるう」

私に近いのに真逆…それはまるで津軽に否定されたような気がした。

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「ホラ見て津軽、動物は命をつないで自分を残していくの。血をつなげば消滅はしないの。」

「人は別のことでも何かを残すことはできるけどね。まあ私は何も残さなくても、別にいいかなって思うけれど。」

変わり者と呼ばれる私より、この人の方がよほど浮世離れしている。この人は私のいる浮世にとどまってくれるだろうか。つなぎとめていたい。この人と一生いると思った…身ごもるまでは。

「津軽もまだ学生で、結婚を迫ってみたんだけど、まだ考えられないって言われて…そんな時、愛染との縁談がきて受けちゃって私も変に意地になってたのかな。そして、お腹が目立つようになる前にだまって子供をおろした」

そうしたらね…
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命を繋げない…

「それから私はかわりを求めて生きている。子供のかわりに残せる何か」

でも病気はどんどん悪くなっていった。

「どうやら私に残された時間は長くはないらしい。だからね、2年前に津軽に話したの、手紙を出して。病のこと子供のこと…ね、津軽にも責任あるでしょう?津軽は私と一緒になるべきでしょう?私を思って、私を忘れずにいてくれるべきでしょう?」

さあ、とどめを―――。

「だからね、鈴子ちゃんは…」

「私…忘れません」

ひなは心のどこかで求めていた答えを受け取ったように、
穏やかな顔で鈴子を見た。

「話を聞きながら考えていました。なぜ私にかまうのか。私のことが嫌いで津軽から離したい?私が嫌いだから絶望させたい?でもどれもしっくりこなくて、思ったのが…試されてるのかなぁって」
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ひなは言葉を発せなかった。
今までのような嘘の笑みはもう浮かべていない。
唇を真一文字に結んで、ただただ鈴子を見つめていた。

突然、背後で杖が転がる音がした。
2人はその気配にふと振り返ると…
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一気に愛染の悪意が彼女達を包み込んだ。

「見つけたぞ小娘エェ!!貴様のせいで!」

津軽と春時が気がつき、彼女たちに駆け寄ろうとするもまだ距離が遠く――
愛染はためらいなく瞬間に、銃の引き金を引いた。

一瞬の出来事だったが、鈴子にはスローモーションのように映った。
愛染が引き金を引くほんの少し間に、風のように目の前にひなが飛び込んできた。

え…
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胸元から真っ赤な血を流しながら、鈴子と共に崩れ落ちるひな。

「ひなさん!!」


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津軽の子どもおろしたって事実だった…

ひなは何を考えているのかよく分からないなぁと思っていましたが、
今回で彼女にひどく感情移入してしまいました。

彼女が執着した、何かを残したいという思い。
鈴子が応えてくれるのではないかと、どこかで期待せずにはいられなかったのですね。

そして、愛染から鈴子を守るとは…
ひなにとって鈴は、自分が手に入れられなかった幸せを全て持っている相手なのに、
「忘れない」と欲しかった言葉をくれただけで、命を懸けられるなんて…切ない。

そろそろクライマックスな予感…


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